労務理論学会第19回全国大会のご案内および統一論題趣旨説明

2009年7月17日(金)から7月19日(日) 駒澤大学深澤キャンパスにて開催されます。


統一論題;現代日本の働き方を問う―規制緩和下の労働と生活―

 

2008年9月25日

大会プログラム委員長 平沼 高  

 『労働経済白書』(2008年度版)は、短期的な視野に立つ成果主義人事制度が就業労働者の勤労意欲の減退を招く要因となっており、そして、雇用形態の多様化の結果として生み出された各種の非正規雇用労働が、企業への求心力を弱めさせていることを指摘している。このように、1990年代からの労働法制の規制緩和化と連動する中で推し進められた労務管理政策の弊害が次第に明らかになりつつある。

 中高年労働者、女性労働者、若者が正規雇用を見出す機会は困難になっていると同時に、雇用を維持しえている多くの正規雇用労働者にとっても、長時間労働と過密労働の蔓延が、労働者から人間らしい労働と生活を奪ってしまっている。国家の経済政策及び労働政策の舵を取る政府から、「ワーク・アンド・ライフ・バランス」が提言される現状とは、現代日本における労働と生活が不均衡で深刻な状態に陥っていることを物語っているといえるだろう。

 駒沢大学で開催される労務理論学会全国大会は、「現代日本の働き方を問う―規制緩和下の労働と生活―」という統一テーマを設定した。全国大会では、主に@雇用と格差、A労働時間、B賃金と労使関係、Cジェンダー、D労働法制という5つの視点から、現代日本の働き方を問い直すとともに、これからの日本における労働者の働き方についても問いかけることにしたい。

 それでは、それぞれの視点から見るならば、どのような問題性が浮き彫りにされることになるだろうか。

<雇用と格差の視点>

従来の長期雇用慣行の縮小・解体化は、労働の雇用と労働生活を不安定なものに大きく変貌させている。しかも、規制緩和政策に伴う経済の市場化と金融化は、国民の生活基盤を動揺させている。経済のカジノ化、株主本位の企業経営は労働者諸階層に所得の格差と文化格差等をもたらしている。今日、雇用形態の多様化は就業労働の不安定化をもたらしており、「登録派遣制度」「日雇い派遣制度」は見直しを余儀なくさせている。

<労働時間の視点>
 戦後日本の労働時間は1970年代半ばを境として長時間化の傾向を採るようになった。1980年代において労働時間の短縮化を進める労働政策の動きがみられたが、バブル経済の破綻とそれ以後における「空白の10年」を経た今日においても、現代日本社会では、長時間過密労働は企業規模や業種を問わず浸透し、しかも、成果主義人事制と雇用の多様化と結びついて、名ばかりの管理職と違法なサービス残業とが広く蔓延している。人間らしい労働と自由時間を保証する労働時間法制と企業における労働時間管理の必要性が、今日、あらためて問われている。

<賃金と労使関係>
 1970年代初頭に登場した能力主義が「経済合理性の追求」と「人間性の尊重」とを基調とするものであったとすれば、1990年代に登場した成果主義人事とは、「人間性の尊重」原理を無視して、「経済合理性の追求」だけを極端に推し進めたものであるともいえる。属人給の流れのなかにあり、人事考課をベースとする職能給の延長線上にある成果主義賃金制度は、業績や成果を生み出そうとするあまりに、実際には業績や成果を生み出すことのできない職場づくりとなってしまった。成果主義人事の現実は、労働の協働性とチームワークを破壊し、疑心暗鬼の職場風土部を生み出し、そして、労働組合運動の混迷を背景として、日本全国に個別労使紛争を激発させてしまっている。雇用労働者に人間らしい生活を保障すると同時に、労働者から合意と納得を得られる賃金制度、労使対等原則を名実ともにする集団的労使関係の再構築が求められている。

<ジェンダー>
 経済政策及び労働政策の規制緩和政策の矛盾の焦点は、特に女性労働者の労働と生活に集中的に表れている。成果主義人事政策の浸透に伴って、雇用と処遇の不平等化は女性が新たに職を得ること、会社で働き続けること、自らのキャリア設計に基づいて職業的未来像を獲得することを困難にしている。国家の医療政策の民営化は医療サービスの格差を生み出しており、高齢者介護政策の民間委託化の推進は、介護サービス事業をまっとうな営利行為(ビジネス)として整理させることを困難にしている現実さえ生み出している。女性労働者の場合、家庭における育児、高齢者の介護などの負担が重くのしかかっていることを考えるならば、今日、労働力再生産の場としての家庭の在り方自身が、人間らしい労働のあり方との関連において、男女同権社会の構築にむけて問われなければならない。そのような時代を迎えているといっても過言ではない。

<労働法制>
 金融ビッグバンの影響は深刻であるが、金融ビッグバンに引き続く外資及び財界の次の狙いは、いわゆる労働ビッグバンである。日本における労働法制の規制緩和政策とは、アメリカ政府による対日圧力を起源とするものであるが、これは労働基準法が定める労働基準(labor standard)を緩和・解体の方向性において見直すと同時に、労働者生活を安定化させる制度的基盤となっている雇用保険、労災保険など、いわゆる労働社会保険諸法令の民間委託化を図ろうというものである。このような動向を象徴するものが、ホワイトカラーエグゼンプションをめぐる議論であった。労働法制の規制緩和は「強靭で逞しい労働者像」を前提としているが、立法の前提となる労働者像を虚像ではなく実像とするための条件整備をも含めた日常的な努力は、財界は無論のこと、労働組合、労働者それ自身によっても継続的に取り組まれているとは言い難い。虚像と実像との乖離を埋めるための努力こそが、これからは問われることになるはずである。

以 上